研究紹介

自然界には電磁気力、弱い力、強い力、そして重力の四つの力が存在することが知られています。これらのうち、重力は宇宙の進化や天体の運動といった物理に関わり、我々人類にとって身近なものですが、一方で、重力が関わる現象には未だ明らかにされていない点も多くあります。

当QG研では、重力・素粒子的宇宙論研究室という名前にもあるように、重力理論だけでなく、量子力学の手法なども用いて、重力に関わる様々な物理現象の理解に取り組んでいます。そして、理論研究の立場から新たな物理を探索し、宇宙論的・天体物理学的な観測結果を通して、重力の性質を理解することを目標としています。

最近の研究内容

現在のところ、当研究室に所属する教員と学生が取り組んでいる研究内容として、主に以下のものがあります。

修正重力理論の宇宙論的応用

重力は非常に昔から知られた相互作用であり、重力の古典論としてアインシュタインの一般相対性理論がよく知られていますが、我々は重力に対応する量子論を知りません。自然界には重力の他に、電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用が4つの基本的な相互作用として存在し、重力を除いては場の量子論として記述できることが知られています。ところが、一般相対性理論に基づいて重力を量子化しようとすると繰り込みができないなどの問題に直面し、未だ重力の量子論を作ることに成功していません。現在、重力の量子理論の唯一知られた候補は超弦理論ですが、我々が観測する時空の次元が4であるのに対し、超弦理論は10次元でしか矛盾なく存在できません。この問題を解決するために、「コンパクト化」や「ブレイン世界」などのシナリオが考えられてきました。

私は宇宙の観測や太古や現在の宇宙論から超弦理論のような高次元の理論について何らかの手がかりを得たいと考えています。研究についての私の目下の興味は「暗黒エネルギー」にあります。宇宙背景輻射の観測から、現在の宇宙が平坦であることが分かりますが、平坦であることと宇宙が膨張していることを両立させようとすると宇宙の平均的な質量密度が臨界密度(∼10−29g/cm3)程度でなければなりません。ところが、星や星間物質などを構成している通常の物質密度は臨界密度の4%しかありません。また、暗黒物質の密度も臨界密度の23%程度だと見積もられています。従って、宇宙の中で臨界密度のおよそ70%の密度が何らかの未知のもので占められていなければなりません。我々は宇宙のこの未知の構成要素を「暗黒エネルギー」と呼んでいます。一方超新星の観測から現在の宇宙の膨張がおよそ50億年前から加速していることが分かり、暗黒エネルギーが大きな負の圧力を持っているということが示唆されます。我々は今暗黒エネルギーの様々な模型を調べており、超弦理論のような高次元に由来する理論の何か手がかりが得られないかと考えており、これらの理論が実験や観測からどのように検証できるかを研究しています。

通常の物質が4%,暗黒物質が23%,残りは暗黒エネルギー

図1: 宇宙の中で通常の物質,暗黒物質,暗黒エネルギーの密度の割合

私は現在特に一般相対性理論を修正したような様々な重力模型について研究しています。このような修正重力理論の典型的なものは、その作用がスカラー曲率の適当な関数で与えられる F(R) 重力理論というものです。F(R) 重力以外でも、重力子が質量を持っている理論や、質量を持つスピンが2の粒子の場が重力と相互作用するような理論、その他の修正重力理論の研究をしていますが、私はこれらの理論はより基本的な高次元理論の有効理論であると期待しています。またこれらの修正重力の模型からの示唆により、量子重力理論の構築を目指しています。

量子情報を用いた宇宙初期ゆらぎの生成機構の解明

宇宙の加速膨張期を与えるインフレーションモデルは、現在の宇宙における大規模構造形成に必要な初期ゆらぎを生成するメカニズムを提供すると考えられています。インフレーションの期間中に量子的に生成された空間曲率のゆらぎは、宇宙の加速膨張と共にその波長はハッブル地平線長さを超えるマクロなスケールまで引き伸ばされ古典的なゆらぎに転化すると考えられています。

この初期量子ゆらぎの古典化の妥当性についてはこれまでにも多くの検討がされているが、未だに決定的な答えは出ていません。私はこの問題に対して量子情報論的な道具(エントロピー、エンタングルメント、測定、ディスコードなどの概念)を用いて答えを出すべく研究を進めています。

[参考文献]

「宇宙初期ゆらぎのエンタングルメント」(解説:量子論の広がり),物理学会誌11月号(2014) p.763-770

「光子の裁判と宇宙の古典性」 数理科学1(2014)p.45-50

ブラックホール時空における波動光学

近年、電波干渉計を用いたブラックホールの直接撮像が計画されており、これが実現すれば一般相対論の検証、ブラックホール近傍の強重力中における物理現象の理解、曲がった時空構造の理解ならびにより広い重力理論に対する制限などの重要な結果をもたらすと期待されています。

理論的にこの状況を計算するには、ブラックホール近傍の光源からの光の伝搬をブラックホール時空上での測地線方程式を解く事で追跡します。これは、重力レンズ天体としてブラックホールを扱う事に相当します。重力レンズ系を取り扱う方法としては波動性を完全に無視した幾何光学極限(波長ゼロ)での解析以外に、短波長の波動効果を取り入れた波動光学的取り扱いも行なわれています。波動性を考慮する事で、コースティック上で起こりうる増光率の発散の回避(増光率の正確な評価)や干渉効果の観測量に対する影響が議論可能となります。ブラックホール時空上で波動光学を考えることで、ブラックホール時空固有の性質である光の不安定円軌道の存在に起因する新たな干渉効果が周波数領域に出現します。この現象に基づいたブラックホールの新しい観測的検証方法の構築するために、ブラックホール時空における波動光学の整備を進めています。

非一様性な宇宙論モデル

宇宙の非一様性が重力相互作用を通して、宇宙全体のダイナミクスや観測に及ぼす影響についての研究を行っています。特に、一様等方宇宙の中の微小な揺らぎとしては扱えないような非一様性の影響に注目しています。例えば,我々が宇宙論的スケールの非一様性の中心にいる場合を考えましょう。我々はその非一様性を外から眺めることができません。このような,我々を中心とした球対称な非一様性は観測的にとらえにくく、ほとんどの場合、存在しないものと仮定します。しかし、このような非一様性がもし存在すれば、暗黒エネルギーの存在量など、重要な物理量を誤って見積もってしまうことが知られています。当研究室では、このような非一様性の影響を理論的に詳しく調べ、有効な観測的検証の手段を探っています。

もう一つ我々が注目している非一様性は局所的で非線形な非一様性です。宇宙に存在する銀河団よりも小さな非一様性は密度分布が非線形であり、一般的な線形摂動では扱えません。このような非一様性の存在が宇宙の大局的な膨張に与える影響や、重力レンズ効果を通して観測に与える影響についての研究を行っています。

数値相対論を用いた非線形現象の解析

重力の方程式であるアインシュタイン方程式は一般に、非線形連立波動方程式であり、対称性などの付加的な仮定なしには解析的に解けません。そこで本研究室では非線形な重力現象に対して、数値的な解法を用いた解析を行っています。特に注目しているのは重力崩壊現象に伴うブラックホール形成に対する臨界現象です。通常、十分大きな質量を持った塊が重力崩壊を起こした場合、最終的にブラックホールを形成すると考えられます。しかし、状況によってはブラックホールになるまで崩壊を続けられずに、霧散してしまったり、安定な星を形作ったり、圧力によって跳ね返されてしまったりすることがあります。つまり、ブラックホールが形成されるためにはある条件を満たさなければなりません。この条件は考える系によって一般に異なり、形成条件が詳しくわかっていない系がたくさん残されています。例えば、初期宇宙で形成されたと考えられている原始ブラックホールの形成条件については、非球対称な場合についての解析がほとんどありません。本研究室では非球対称性を考慮した原始ブラックホール形成についての研究に数値相対論の手法を用いて取り組んでいます。また、重力崩壊における臨界現象では、初期条件を特徴づけるパラメータに対して、形成されるブラックホールの質量が、ブラックホール形成の閾値付近において、普遍的な冪則に従うことが知られています。このような非線形重力崩壊に付随する、重力の普遍的な性質を明らかにするための研究を行っています。

最近の論文

当研究室の最近の論文は,次のリンクを参照してください。